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ドアを開いた瞬間。
えもいわれぬ冷たい空気が流れてきた。
「薫お兄様っ……!」
堪えきれず僕は大声で薫の名を呼ぶ。
しかしそこにいるはずの兄の姿はなく――。
見れば大きく開いた窓から吹き込む風が
薄っぺらいカーテンを不気味に揺らしていた。
それはまるで死神の手招き――。
僕は後先考えず部屋に足を踏み入れる。
ベッドに触れる。
掛け布団はこんもりと盛り上がっておりまだ暖かい。
つい先刻までここに薫がいたのは確実だ。
だとしたら――。
「ウソだろ……」
カラカラの喉を鳴らし
僕が窓辺に駆け寄ったところで。
「薫くんは……?」
九条さんが部屋に駆け込んできた。
何とも言えなかった。
今ここにいないとしか――。
僕は窓枠に手をかけ
おそるおそる階下をのぞき込む。
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