80人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
街灯が照らし出す地面に
僕の想像した最悪なものは存在しなかった。
故意か不意かは分からないけれど
僕はそこに転落した薫の亡骸があるんじゃないかと
心のどこかで恐れていたわけだ。
最悪の事態は免れた。
しかし不自然なことに変わりはない。
現に病院は襲撃され
薫は姿を消してしまっているわけだから――。
「和樹、あれ……!」
その時。
僕とは逆の方――。
つまり天の方を向いていた九条さんが緊迫した声を上げた。
僕は窓から身を乗り出すようにして
彼の指す方を見上げる。
「ウソだろ……」
心底ゾッとした。
黒いローブが風に翻る。
ルカがマネキンのような薫を片腕に抱いて
宙に浮いていたからだ。
最初のコメントを投稿しよう!