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特定の縄張りを持たない旅猫である彼は、最近この近辺には不穏な空気が立ち込めている事に気が付いていた。
原因は十中八九あの犬で間違いない。
あの犬がどういう存在なのか、猫にとってどれ程の脅威なのかを知っておかねばならなかった。
3匹はあっという間に袋小路までたどり着いた。
烏に荒らされたゴミの散らばる袋小路。追い詰められたサバトラはその小さな顔いっぱいに恐怖と絶望とを浮かべながらも全身の毛を逆立てる。
(いよいよクライマックスってところか。まったく愉快ではないけどよ)
そう思いながら白猫は近くの瓦屋根の上に腹ばいになった。ここからなら2匹の様子が良く見える。
長い逃走劇の割に決着はあっさりしていた。
犬は脇をすり抜けようとするサバトラの脱出を許さず、サバトラを太い前足で蹴飛ばし、踏みつけ、そしてその鋭く尖った牙で喉笛をひと噛み。
ぎにゃあ、と潰れた断末魔が響く。
(やっぱり、同胞の悲鳴なんて聞きたいもんじゃねえな)
白猫はほんの少しだけ顔をしかめた。
それでも自分の選択が選択が間違いだとは思わない。
間抜けな知らぬ猫が殺されたところで怒りなどは微塵も湧かない。もちろん愉快なものではないけれど。
薄情者だと思われようが、もともと猫は得にならない事はしないのだ。
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