猫、はしる

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(噂には聞いちゃいたが、よりによってこの縄張りに来るなんて……)  白猫はふるふると唇を震わせた。  心の臓は未だに警鐘を鳴らし続けていた。「二度と奴に近づくな」と白猫の野生が語り掛けてくる。生き残るための本能に「そういうわけにもいかないんだ」と返しながら、今日だけは犬から逃れるために走る。  はしる。  奔る。  屋根の上は安全な場所のはずだった。けれども白猫は出せる限りの全力でその上を駆けた。  それくらい、かの犬は恐ろしかったのだ。
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