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そこに理路整然とした根拠はない。
なけなしの危険察知能力が鳴らす、今までにない程に派手な警鐘が唯一の理由だ。シキであれば、根拠も矛盾も疑問も訥々と語る事が出来るのかもしれないが、今のテツにそんな余裕はない。
(ころされる)
この際、奴が半兵衛を殺したのかどうかは優先すべき問題ではない。
重要なのは、これから自分が噛み殺されるかもしれないという具体的な危機が、すぐ後ろまで迫って来ているという事だった。
全力で駆けながら、テツは後ろをちらと見やる。
犬は一定の距離を保ってついてきていた。こちらは全力で走っているのに対して、犬の足は随分と余裕を持った動きをしているような気さえする。足の長さの違いだろうか。
こんな時に限って人通りはなく、周囲に登れるような場所もない。
だんだんと苦しくなってきた呼吸に足を縺れさせながらもテツは走る。
背後の犬によって人通りのない道へ、上るものがない場所へ誘導されているとも知らず。
自分の向かうその先が、行き止まりだと知らぬままに。
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