廃墟の猫集会

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廃墟の猫集会

 逆衣町の山間部には農家が多い。  とろりと溶けだしそうな夕陽に赤く染められた稲穂の絨毯の中にぽつねんと、立派な垣根と門に守られるようにして大きな家が鎮座していた。  門を入ってすぐの所にある白と黒の玉砂利を敷いたささやかな中庭には、綺麗に整えられた横広がりの枝を持つ立派な松の木が植えられている。右手側には白い漆喰で塗られた壁と黒い瓦屋根が特徴的な大きな古い屋敷があり、その反対側には更に古めかしい農具などを収納するための木造の納屋があった。  その納屋の屋根に1匹の猫が寝そべっている。  茶色いトラ柄の年の若い小柄な猫だ。首輪をしていないので野良猫にも思えるが、太陽の光の下腹を出して眠りこけるその様は、完全に野生を捨て去ってしまっている。 『テツくーん!』 「にゃっ!?」  下から大声で声をかけられて茶トラの猫――テツは驚いて勢いよく体を起こす。あまりに驚いたのか、はたまた寝ぼけていたのか、自分が屋根の上に居たことを失念していたらしい。すっかりバランスを崩してしまったテツは、慌てて瓦の上で踏ん張ろうとするものの爪はシャカシャカ滑るばかり。  そのまま真っ逆さまに屋根の上から転がり落ち、     
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