お見舞い

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寝ている間、小学生の頃に父親が入院先の病院で病死した過去の記憶の夢を見た。 泣き叫ぶ母親と親戚達、何が起こっているのかすぐには呑み込めずにただ虚無感と喪失感に暮れる幼い少年がそこにいた。 少年の父親は医者だった。病院では白衣に眼鏡姿でテキパキと仕事をこなすお医者さんで、家では冗談好きで面白くて優しい父親だった。 父の死後、少年は以前より病気がちになり数年間学校に通えなくなり、明るくてはつらつとしていた母も暗くなった。 完璧で幸せだった家族の時間は、一気に崩れ壊れてしまった。 どんなに願っても叶わない、父を失う前の幸せだったあの頃には戻れない。 少年は未だに父の死を受け入れられず、長い旅に出ているだけでいつか帰ってくるのだと思いたかった。 あの時から心の中の時間はずっと止まったままなのかも知れない。 少年(ああ…だから病院は嫌なんだ…悲しくて辛い記憶しか無いから…ねぇ神様、どうしてお父さんを長生きさせてくれなかったの?) 少年「お父さん…」 気が付くと涙が頬を伝っていた。 父の喪失の事を考えると涙が止まらなくなり、暫く泣いてから泣き疲れて再び眠りについた。
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