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7、曇り
瞬きを我慢してジッとスマフォの画面を見つめていたら、メッセージに既読がついた。
よしきたっ!
どんな返事が返ってくるのか期待が高まり、また掌からは汗が滲み出ていた。手に汗握る緊張感とはこの事を言うのだと改めて実感した。
『僕の奥さんはご存知だと思いますが、武内直美と言います。旧姓は、田島直美です』
背筋からぞわぞわっと気持ちの高まりが込み上げる。それを抑えられず、
「きゃぁーっ!」
と思わず発狂した。
「うそうそ、ホントに!?
ってか何で連絡の一つもしてくれないのよー………」
一先ず落ち着いてから武内さんにLINEを送った。
『ありがとうございます。やっぱりそうでしたか。アカウントが変わったのは知っていたのですが、このアカウント自体、名前やらアイコンやらと色々と変わっていた事には気付きませんでした。それで先日このアカウントを再び確認したら、背景に同級生が写っていたのでまさかと思ったんです』
『そうだったんですね。もしかしたらそれもりょうの仕業かもしれません』
『大人でも操作に苦戦するのに、ここまで十分スマフォを使いこなせるなんて息子さんホントにすごいですね!』
『はい、私も本当に驚いています。いつもYouTubeを見たいと叫んで、僕や妻のスマフォを奪い取ってくるので、それで操作とかもいつの間にか覚えちゃったのかもしれません(笑)』
ホントすごいなぁ、これも時代だね。それにまだ三歳なのにもうYouTubeとか見ちゃうんだ。最近の子は進んでるなぁ。
感心し過ぎてまた肝心な事を忘れてしまいそうになった。
「あ、そうだ」
『直美はお元気ですか?
四年前から連絡がパタリとなくなったんです。つい最近LINEを送ったんですが、まだ返事が来なくて』
『直美は今、アメリカに出張中ですね。出張中は忙しくて連絡が遅れるとも仰ってました』
これには阿呆みたいに口を大きく開けて驚愕した。
「それは知らなかった。そっかぁ、時差もあるし連絡出来ないのも無理ないよね」
本当に忙しすぎる人はLINEなど見る暇もない、そういう事なのだろう。
直ちゃんと互いに連絡をしなくなったのは今から四年前。現在三歳の子供がいるとして、妊娠から出産までの年数を考えたら計算も合う。
仕事をしながら子育てもしてたなんて、そりゃぁ忙しくて私に構う時間なんてないよね………。
納得したが、同時に劣等感を抱いた。同級生が既に結婚していてさらには子供を産み、家庭をより築いている。
それを知った私は人より優れていない、取り残されているなど、それが重くのしかかり辛くなった。
ブルーな気持ち一色に染まった心。しかしこんな気持ちにさせたのは、全部お酒のせいだ。これはアルコールが身体中を蝕み、心を攪乱させた、という事にしておいた。
『なるほど、事情はわかりました。色々とお話を伺ってご迷惑でしたよね。私の話を聞いてくださって本当にありがとうございます』
『いえいえ、こちらこそ話ができてよかったです。よろしかったら僕からも直美に伝えておきましょうか?』
うそ、どうしよう。わざわざ旦那さんからも伝えてもらえるなんて………。
悪い気がしてならないのは自分でもわかっていた。でも久しぶりに直ちゃんと話がしたかったので、ここは素直に旦那さんに甘えてしまった。
『本当ですか。わざわざありがとうございます。お手数お掛けしてすみません』
『いえいえ、今回の件もありますし、これくらい任せてください』
ホントいい人でよかったぁ………。
この件も一段落し、私は胸を撫で下ろした。また武内さんの優しさについ、
直ちゃんはいい旦那さんを見つけて羨ましい。
と心からそう思った。
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