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8、曇り
始業時間はとっくに過ぎているが、私は一向にスマフォの画面から目が離さないでいた。
頬杖をつき、昨日のLINEのやりとりをまだ眺めている。
武内さんも忙しいのにわざわざ私のためなんかに動いてくれるなんて、ホントなんて優しい人。あいつとは正反対だ。
あいつというのは、現在喧嘩中で共に連絡すらとっていない私の彼氏である。
『もう一生連絡してこないで!』
怒り口調でそう言った途端、彼から一切連絡をよこさなくなったのが今から四ヶ月前。今彼の顔や声を思い出しただけでも虫唾が走り、邪念を振り払うかのように首を振った。
もう最悪、思い出したくなかったのに………。
反吐が出そうな顔をしている間に、社内が慌ただしくなっている事に気が付いた。電話応対で忙しい人、会話からして取引先の企業だとわかった。PCに何かを打ち込んでいる人、そのブラインドタッチの早さが仕事出来る人を物語っていた。
仕事を真面目にこなす人達を見ていると、妙な違和感を覚えてくる。
私ここで何してるんだろう?
ここは居心地が悪く、私はこの会社に必要なのかとさえ思い始めた。そうやってまたしょうもない事を思い浮かべて、自分を追い込んでしまっている。いい加減学習しないと、この先もやっていけないのに。
スマフォを置き、うなだれてデスクに突っ伏した。傍から見たら寝ている姿に捉えられるが、これは休憩しているという形として大目に見てほしい。
例え見つかったとしても、誰かに怒られる覚悟は既に出来ていた。
瞼を閉じかけた瞬間スマフォが振動し、素早くスマフォを掴んで上体を起こした。その間わずか〇.五秒。
無意識に唾を飲み込み、迸る緊張感が私の体内を駆け巡った。今、私は心が躍っている。LINEが届く幸せを、こんなにも凄く楽しみにしている自分がいた。この心躍る感覚は、初めてケータイを触った高校一年生の頃に似ていた。
「………直ちゃんだ」
やっときた。ホントにもう何年待ったか………。久しぶり、直ちゃん。
四年ぶりに旧友からのLINEが届き、安心したら頬が緩んだ。こういう時にだけ私の心が晴れてくれる。
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