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9、雨
―――数日後。とあるファミレス店にて、カジュアルな服装で決めてきた私は、一番奥の角の席を陣取った。
この歳になって一人でファミレスに入ったのは初めてかも。なんか緊張する………。
周りを見渡すと、家族連れや学生達で賑わっている。それに対して、一人ポツンと席に座っている私がとても寂しいように感じ、またそう思うと恥ずかしくていたたまれない気持ちになった。
どうしよう………。私だけ浮いてないかな。一人ってなんか落ち着かない、直ちゃん早く来てくれ………。
苦痛な待ち時間の間、今から来るはずの直ちゃんがまずどんな服を着てくるのか、彼女の子供は誰によく似ているのかなど、色々と想像を膨らませた。
仕事中だとしたら、もしかしてスーツで来るのかな。いや、流石に仕事中わざわざ時間をとってまでこの日を選ぶわけないか。やっぱり家族と一緒に来るよね。あー、一体どんな子かなんだろう。めっちゃ楽しみなんだけど………。
直ちゃんの事だから派手な服装で決めてくるとかないよね。確か何年か前に、居酒屋に一人キラキラした服を着て登場した記憶があったなあ。その時皆ドン引きしてたよね、あれは流石に浮いてたわ。
待てよ、もしかして親子揃って派手な服を着てるなんて事………。
光輝く派手な服を着た直ちゃんとその子供が脳裏に浮かび、ゾッとして直ぐにかぶりを振った。
ないないない。まさかそんなわけがない。
可能性としてはまず絶対にないだろうと思ったが、会わない日が続いていれば人も知らずと変わっている事もある。変に想像を膨らませて一人浮いた存在ではあるが、この時間をそこそこ楽しんだ。
やばい、また急に緊張してきた。頼むからもういい加減慣れてよー。なんで友達に会うだけでこんなに緊張しちゃうのよー………。
例えるなら初めての営業時、お得意先の偉い方に挨拶するほど緊張している。初対面の方に会うのと一緒なわけだ。久しぶりに直ちゃんに会うのはとても嬉しい、だけど凄い緊張している。本当に変な感じだ。
落ち着いたのは一瞬で、時間が迫ってくる度またそわそわし始めた。腕時計で時間を確認したり、窓の外を眺めたり、挙げ句の果てにはネットサーフィンをして気を紛らわした。
ホントにどんな感じに変わってるんだろう。もうママになってるんだし、少しは大人な雰囲気になってるのかな。頼むから私を見て何も変わってないとかは言わないでほしいな。私だって昔よりかは、
「お客様、失礼致します」
「ふぁいっ!」
突然、ウェイトレスに声を掛けられて心臓が破裂しそうになった。
やばっ、変な声出ちゃった………。
「驚かせてしまい、大変申し訳ございません」
深々と何回も頭を下げてくる。
やめて、余計恥ずかしくなるでしょ!
顔全体が急激に熱くなった。
「だ、大丈夫ですよ。気にしないでください………」
「いえ、本当に失礼しました」
「いえいえ、本当に大丈夫ですから」
「いえ、ですが私が突然お声をかけてしまったせいで………」
お互い一歩も引かないやり取りをしている中、ウェイトレスの後ろからひょっこりと顔を覗かせた女性が目に入った。私の頭の中がぐるぐると回転し始め、数秒間廻り廻った後、その女性が直ちゃんだと気付いた。
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