3、雨一時曇り

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「なによー」 「だから、そんな奴放っておけばいいじゃんって言ってるの」 「だってさー。ってかあなたさっきは気軽に会ってみればとか言ってたくせに」 「………冗談の通じない子ね。じゃあ仮に、あなたとその人がLINEでどんどん発展していったとするじゃん。そしたら向こうがその気になって、この場所でこの時間に会いましょうか。ってなったらどうするの、ホントに会いに行ける?」 「それは、ちゃんと考えてから………」 言い返す言葉が見つからなかった。確かにその人と話が盛り上がり、向こうが会う気でいたとしても、私は会いに行ける勇気がないかもしれない。 もしその人が悪い人だったら、待ち合わせをした場所で何をされるかわからないし、それが一番恐怖に感じていた。愛美がため息を吐き、今一度私に思い出させるようにこう告げた。 「さっきのはホントに冗談で言っただけだからね。まずあなたはそんな事より、今の彼氏さんの事を考えなさいよ」 「わかってます。けど、それとこれとは別なの!」 「うわぁ。それを聞いた彼氏さんはどう思うかしらね。気の毒よねぇ」 「………」 愛実の軽蔑した態度に苛立ちを隠せなかった。 こっちの気も知らないくせに、ってか愛美には関係ない事でしょ。よく平然と言えるわね。 「もういい、愛実は首を突っ込まないで。もう相談もしないから」 愛美とこれ以上言い争っては関係が悪化してしまうと判断し、今すぐここから離れる事にした。 「ちょっとなに怒ってるのよ、(ゆう)ちゃん!」 「お疲れしたー」 私は腰を浮かし、荷物をまとめて事務所を後にした。 愛美の顔なんかもう見たくない。何様のつもりよ、偉そうに言ってきてホントに腹が立つわね。 私は憤怒が治まらなかった。降りしきる雨に打たれながら歩いていると、コンビニの看板が目に入ってきた。傘でも買おうかと一瞬思ったが、そのまま素通りした。 さらに先へ進むと駅の改札口があり、いつもなら電車に乗って帰る所なのだが、そこも無視してひたすら先を歩いた。 通勤で利用している電車にも乗らず、大雨の中徒歩で帰宅した私はバカの一人だ。 自宅に着いた頃には全身がびしょ濡れ、髪の毛の先から水滴が滴り、そのまま立っていたら玄関を水浸しにしそうな程の勢いだ。おまけに最近買ったバッグもびしょ濡れ、もう何もかも憂鬱になりそうな気分だった。 濡れたバッグの中身を取り出そうと手を突っ込んだら、なんと折り畳み傘が入っていた。私は落胆し、ここ一番の大きなため息を吐いた。     
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