1、晴れのち曇り

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1、晴れのち曇り

朝五時。今日から六月に入り、季節は段々夏色に染まり始めている。また日が上り始めたこの時間の空気は透き通っていて、ここが自然溢れる長閑な町だったら、とても美味しい空気を味わう事が出来ただろう。 と、現在都会に住んでいる私は密かにそう思っていた。 時刻はまた変わって午前六時。自宅のベッドでスヤスヤと寝ていた私は、アラームが鳴る前に目を覚ました。変な夢を見てしまい、ビックリして目が覚めたのだ。 狼狽した描写も見受けられたけど、一体何の夢を見ていたのか、具体的には思い出せなかった。 誰かと『LINE』していたような気がしたけど、誰だったんだろう………? その誰かを横になったまま考え込む。ただの夢なのに必死に思い出そうとしているのは、余程気になる夢だから。もし思い出せたら同僚との話のネタにもなるし、脳もスッキリする。そのはずなのに、全く思い出す事が出来なかった。 「………あー眩しいなあ、もう」 カーテンの隙間からチラチラと日が差し込み、嫌気がさして寝返りを打った。 あ、そうだ。またすっかり忘れてた。 忘れてたというのは、私が寝るために利用しているこのベッドの事だ。 ベッドの位置を変えよう変えようと思っていたのに、いつも忘れてそのままにしていた。だから毎朝目覚めると、眩しい日差しがおはようと言いながら私の顔めがけてアタックしてくるのだ。ストレスに感じていたし、うんざりしていた。 「明日、明日こそやるから………」 そう言っていつもやらない。横になったまま腕と背筋をピーンと伸ばし、 「んーやぁっ!」 そして変な声とともに体を起こした。 目覚ましアラームを解除するため、短足テーブルの上に置いたスマートフォンを手にとった。アラームが鳴る前に起きれたのは珍しい事であり、自身を賞賛してもいい。大袈裟だが、奇跡とも呼ぶべきだった。 なんか天気も良さそうだし、今日はついてるかも。 ちょっといい朝を迎えられただけで気分は良好だった。 ベッドの位置を変えていればもっと気分は良くなっていたかもしれないのに、この時もう既に頭の中からその事が抜けていた。 アラームを切って時刻を確認した後、画面上に小さく表示された『LINE』が目に入った。 「あっ、誰からだろう」 大きく欠伸(あくび)をしながらLINEを起動させる。 まさか慎司(しんじ)かな。あー、でも愛美(まなみ)からかもしれない。昨日のLINE既読したまま返し忘れていたし、また返事が来たのかも。 しかし送られてきたLINEは真司でもなく、愛美でもなかった。LINEの『トーク』画面を見て、私は首を傾げた。 「………だれ?」 見覚えのない名前。フルネームで『武内(たけうち)りょう』と書かれていた。 こんな人とLINE交換したっけ? 必死に思い出してみたが、全く記憶になかった。身に覚えもないものを目にした時、人は恐怖すら覚えてしまうとはこの事なんだなと改めて思い知った。 「えー、ちょっと待って怖いんだけど!」 奇妙なものを見るように表情がひきつった。その知らない名前のところには、赤く『1』と表示されていた。これは私宛にメッセージがある事を示している。恐る恐るタップして内容を確認してみると、 「えっ、待ってホントになんなのこの人?」 また自然と首を傾げた。 『んたらひあしたあおう』 というメッセージだけが書いてあった。
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