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2、曇りのち雨
私は悩んだ挙げ句、返事を返した。
『差し支えなければですけど、どういったご用件でしょうか?
私の記憶が正しければ、あなたとLINEを交換した覚えは一切ありません。もし以前、あなたとLINEを交換したことがあると記憶にございましたら仰ってください。こちらも確認します。会うのはその後で』
と送ってはみたけど、この返事の仕方はちょっとどうかなと今更思い始めた。
謎のメッセージに対して、改まった言い方が通じる相手なのかどうかすらわからないのに、何故このような文章を送ってしまったのか、それは簡単だ。『初対面』だから。
初めましての人には、必ずしも礼儀正しく接しなくては第一印象に欠けてしまう。なので良い印象を相手に与えるために、社会人として改まった文章を書いたのだ。
しかし最悪、『こういう人なんだあ、ガッカリ』と残念に思ってくれてもいい。
相手が想像していた印象と異なれば、諦めてLINEしてこなくなるはずだから。そうすれば、こちらとしてもありがたかった。
そもそも変なメッセージを送ってきた相手に返事を送り返す私もどうかしているが、その辺は私の性格上の問題だから仕方がない。
さて、どうなることやら。もう、朝っぱらから怖がらせないでよ。
普通は知らない人からLINEが来てもそのまま既読スルーを行うか、何もせず無視をするのが正しい。ただ既読スルーをしたとしても、
『あれ? なんだよ既読してんじゃん。返事してくれよー。おーい、無視すんなー』
とかなんとか言ってきそうなので、それは私の最も嫌いなパターンだ。
既読しているのに返事も返さない、ただ無視をしているだけ。それでは相手に怒りを買う事にもなるし、不快感も与えてしまう。
だからそうならないために、どんな人でも必ず返事は返そうと心掛けている。こう見えて私は優しいのだ。
メッセージを送り返し、一息つこうとベッドに腰を下ろしたが、直ぐに事の重大さに気付いた。
「って悠長にしてる場合じゃない」
私は急いで支度をして会社へと向かった。
道中、電車内でLINEを確認しても返事はまだ返ってこなかった。会社に着いてから朝のミーティングを終えて、またLINEを確認しても返事はまだない。
時刻はさらに進み、昼食を取るため食堂へと向かった。この会社には食事をするためのスペースが設けてある。
私は壁際のテーブル席に座り、またLINEを確認してみたが、一行に返事は来なかった。
向かいの席では、食事に誘ってくれた同僚の愛実が、美味しそうにミックスサンドを食べていたのがまた憎かった。
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