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4、曇り時々雨
何を思ってこの文章を私に送り付けてくるのか、本人に問い質したのは確かだ。
しかし当の本人は私の問いを無視して、意味不明な文章を送ってくるだけ。話のキャッチボールすらまともに出来ない相手だった。私に恐怖を植え付けて楽しんでいる武内りょうが脳裏に浮かび、思わず身震いした。
「ホント何考えてんのマジで。怖すぎるんだけど………」
恐怖という先入観にとらわれて手が震え出した。
「えー、どうしよう。通報した方がいいかなあ。いや、待ってでも、あー、どうしよう………」
手の震えは治まらず、何をすれば正しいのかさえわからなくなり、ついには混乱してしまった。ここは瞼を閉じて、精神を整えようと大きく深呼吸する事を試みた。
そしてこのアカウントをブロックするか、それとも通報するかの二択に絞った。
「やっぱ返事なんてしなきゃよかった。なんでやらなくてもいいことをしちゃうんだろう。ホントバカみたい」
後悔してやっと気付く。そうなる前に、今までの考え方や行動も見直すべきだと心からそう思った。倦怠感が体中をめぐり、
「もういい、もうどうにでもなれ」
と心にもない事を呟きながら、ビールをグイッと飲み干した。
空になった缶をテーブルに置き、彼のアカウントを開いた瞬間、思わず口に手を抑えるほど驚愕した。
「えっ、うそっ!?」
アカウントの背景画像、そこには高校の同級生、『田島 直美』が写っていた。幼い子供を抱き抱えながら笑顔でピースをしている。
「直ちゃん?
でもどうしてこの人のアカウントに………?」
何故このアカウントに彼女が写ってるのか、疑問符が渦を巻くように頭の上をぐるぐると回った。
最初に返事が届いた際、気になってこの人のアカウントを開いてしまった時がある。その時はフリー素材のような、オシャレなインテリアを飾った背景画像だった。直ちゃんなんてどこにも写っていなかったのだ。
「もしかしてこのアカウント、直ちゃんの彼氏さんじゃないよね………?
待てよ、子どもと一緒に写ってるってことは結婚して、まさか人妻!?」
なんで連絡して………、待て待て一旦落ち着こう。
私は先ほどよりもさらに大きく、そして長く深呼吸をした。事情を聞いてみるべくLINE機能の『友だち』を開き、直ちゃんのアカウントを探した。
久しぶりだなぁ。いつぶりだろうLINE送るのって。
大きな喧嘩をしてLINEを送らなくなったとか、特に気まずくなったわけでもない。お互い忙しくてLINEをする暇もなかったのだ。ただ忘れかけていたと言ったら友達として最低だけど、本当にそうとしか言えなった。
「あった!」
彼女のアカウントを見つけた際、背景やアイコンが新しく変わっていた事に気付いたのはまた後の話。今はそれよりも、どういった文章を送ろうかと考えるのに必死だった。
久しぶりだけど、なんか別の意味で緊張するな。まず探り探りで聞いてみようかな。
音信不通だった友達に、四年ぶりのLINEを送るのはちょっと勇気がいる。改まって訊ねるのも変なので、普通に会話する時と同じような文章を書いた。
『久しぶり! 元気してる? こっちは元気だよ。久しぶりにご飯食べに行かない? もし都合がよかったら連絡してね』
送信して返事を待つ。
遠回し過ぎたかな。でも直球で聞くのもなんだし、これでいいでしょ。どんな返事が返ってくるかなあ。ってかちゃんと返事送ってくれるよね。待ってそもそも既読してもらえるかどうかさえ怪しいぞ。
期待と不安にかられながら待っていると、通知音が鳴った。
「はやっ!」
まだ一分も経ってないのに。
胸の鼓動が早まり、緊張でLINEを開くのを躊躇った。友達からのLINEに対して、何故こんなにもビクビクと怯えてしまうんだろう。臆病者の私は嫌と言うほど再び呼吸を整えて、まだ震えが止まらない手でLINEを開いた。
しかし返事は直ちゃんからではなかった。送り主は、またあの武内りょうからだった。
「もー、今度は何!
またへんてこりんな返事でも………、えっ………」
開けっぱなしの口から唾液が零れそうなくらい、文面を凝視していた。
『この度は大変失礼な文章を送ってしまい、誠に申し訳ございませんでした。不快にさせてしまったと思います。深く心からお詫びを申し上げます。本当に申し訳ございません』
さっきまでと一変して、丁寧な文章が送られてきた。
「な、何これ………」
唖然とし、同時に頭痛が起きた。
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