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彼、相方は天才だ。 笑いのセンスがいい。なので、ツッコミのセンスがいい。それは最早芸術的でさえあると思う。 ボケに対してツッコミを入れる時、重要とされているのは「間」である。 簡単に言うと、「時間」のことである。 彼はこのツッコミの「間」の取り方が上手い。 ここが上手いだけで普通の会話も面白くできる。彼は普段からその使い方が上手いので会話が既にネタより面白いときがある。 「ボケの役割に回る者、というのは上手いツッコミによって生み出される」 とまで僕が考えたほどだ。 僕は彼と出会って話しているうちに、「彼を色んな人に認めさせたい」と思った。 なので、僕がネタを書くと言っても基本的には彼とのやりとりの中から生まれ出た会話を応用させているだけに過ぎないし、それを彼に見せて、彼がクスッとでも笑うまで、徹底的にネタを仕上げる。 僕の描いたボケに対して書いた台本にツッコミを入れてくれるようになるまで。 その相方というのも漫才の歴が浅い訳ではない。今でも僕と同じようにアルバイト生活をしながら漫才を一緒にやってもらっている。 「俺、漫才辞めるわ。」 あるとき彼がこぼした。 それはとある漫才イベントの二次オーディションに落ちてすぐくらいのことであった。 僕は以前よりずっと彼の良さ、才能、それらを伝え続けてきた。君と漫才を続けていきたいと。 しかし、彼はそのとき僕に対し、 漫才の姿勢、ネタ作り、努力を僕に伝えてくれた。そして、それについていけなくなったということを、最後に「お前と漫才が続けたかった。」と彼は言った。 そうじゃない。僕は君と漫才がしたくて、その努力を続けてきたのだと。この生活を続けてきたのだと。だから一緒に漫才をさせてくれと、僕は言う。 しかし、彼は首を横に振り、僕に言った。 「お前の頑張りは報われるべきなんだ。俺は、自分はために、家族のために、ちゃんと職について働きたいんだ。」 僕は君と漫才をするために、ネタを書いてきたんだ。頑張ろうと思えたんだ、君が居ないと僕は漫才ができない。 なんでもするから、君のとなりで漫才をさせてくれ。と泣きつく。 「いや、僕かよ。」
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