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「雪子さん、姿を出すんだったら、出勤カードをぶら下げておいてくださいよ。こっちは雪子さんが意識的に姿を見せようとしないと、見えないんだから」
話し声がして、目をゆっくりと開く。
「すみません。すっかり忘れていました」
俺は事務所のソファに寝かせられていた。近くで案内してくれたスタッフの方と女性が話していた。
「久保さんが風邪なんですか?」
「そうなんですよ。せっかく冷凍庫の修理依頼をしたのに、詳しい久保さんが休みでこちらも困っていて」
「あら。では、お見舞いにでも伺おうかしら」
「やめてください!この前、溶けて死かけていたでしょ!年なんだから…うっ、寒っ!」
「それ以上言ってたら、凍らせますよ?…あら!お目覚めになられたんですね!」
やりとりを呆然と眺めていたら、女性が気づいてこちらに近づいてきた。
「すみません。驚かせてしまったようで」
「えっ?…あ、冷凍庫の?」
「はい」
にっこりと笑う女性を見て、我にかえった。
「手は!?」
手が溶けていたのを思い出し、慌てて彼女を手を掴んだ。彼女の手は溶けた様子もなく、ほっとした。手が溶けたように見えて勘違いをしてしまったようだ。
「よかった。綺麗な手のままですね」
「…あ、あの、手を」
少し顔を赤くした女性を見て、慌てて彼女の手を離した。
「す、すみません」
「いえ」
「よかったです。目が覚めて」
スタッフの方は暖かいお茶を持ってきてくれた。
「ありがとうございます。むしろ、ご迷惑かけてしまったようですみません。彼女がいて、驚いてしまったようで」
俺は落ち着くために、お茶を1口飲んだ。
「いや、彼女の手が溶けたと見間違えて、気を失ってしまったようです。手が溶けるなんてありえないですよね」
「そ、そうですよ!人の手が溶けるはずないですよ!北村さん、お疲れなんですね」
返答しているスタッフの笑顔が引きつって見えたが、俺は笑いかえす。
「そうですよ。私の手が溶けるなんて。…もう少し温かいお茶をお入れしますね」
もう1人の女性が空になった俺の湯のみに触れようとした。
「あっ!雪子さん、待って!」
「熱っ!」
彼女が湯のみに触れると、指先から水が滴り始めた。みるみるうちに、指の形がなくなってしまった。
「えっ…と、と、溶けて…」
驚いてそれ以上に声が出ず、2人の顔を見た。彼女は白い肌を真っ青にしてこちらを見ていて、スタッフの方はため息をついて彼女を見つめた。
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