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「ちょっと泣いてるけど」
机の上に一粒、コロンと飴玉が転がってきた。
あちこちから声が飛んでいる、昼休み真っ只中の教室。前の席から投げられた言葉は、やけに凛として聞こえた。
放心状態で俯いていたわたしは、その黄色い包み紙を一瞥し、ひどくのっそりと顔を上げる。
「……別に泣いてないけど」
鬱陶しさ半分、驚き半分。
山下くんに話しかけられたのは、これが初めてだ。
「いや、泣いてる」
涼しげに断言する目の前の男に、わたしの神経はチリっと嫌な音を立てた。見透かしたような口ぶりは、今一番鼻につく。彼が転がしてきた黄色い飴玉さえも、わたしを小馬鹿にしているようだ。
たしかに先程、彼氏から一方的に別れのラインが届いたけども。焦って理由を聞いたら既にラインはブロックされていたけども。
これがクラスの馬鹿な男子が話しかけてきたのなら、華麗にスルーしてやるところだ。しかし、今まで一切絡みのない山下くんを無視するのは、やや憚られるところがある。
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