1 フォンデュで本番

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 糸川の行儀の悪さをついつい忘れて、素直に感心する小野寺に、気を良くした更に続ける。 「顕が今日はチーズフォンデュだって言ったから、調べた。おれ、今日はビールじゃなくてホットティーでしょ?何でだと思う?」  確かに、昼食の前に小野寺がビールか白ワインかを勧めたら、紅茶、しかも温かいのがいいと糸川は言ってきた。  ワインはともかくビールは、前にも飲んでいたことがあったので何故だろう?と小野寺は思ったのだが、まぁ、そういう気分なのだろうと、特に尋ねはしなかった。  黙っている小野寺へと、糸川は告げる。 「チーズフォンデュを食べる時、水かビールを飲むと胃の中で固まるって本場では信じられてるらしいよ。迷信らしいけど。冷えたワインでも、ダメな人は悪酔いするんだって。・・・顕は平気?」  最後の一言は笑いを収めて真顔で尋ねてくる糸川に、小野寺は白ワインが入ったグラスを掲げることで応えた。 「別に大丈夫だよ。キンキンに冷えてるわけじゃないし、そんなに飲んでないから」 「飲めばいいじゃん。ここは顕の家で、今日は休みなんだし」  やっと野菜、でもヤングコーンをかじり出した糸川に、小野寺はそのままグラスを向けてみる。 「まぁ、そうだけど・・・嫌いじゃないなら、おまえも味見するか?」 しかし糸川は、 「顕が口移しで飲ませてくれるなら」 と体をテーブルの上へと乗り出して顔を近付けて、本気で冗談を言った。 「ぬるい白ワインは不味いぞ?」  こちらは天然マジボケの小野寺にそう返されて、糸川は鼻白んで大人しく引き下がった。  あからさまにふてくされて、つぶやく。 「・・・じゃあ、要らない。酔っ払うと、役に立たなくなるし」 「役に立たなくなるって、何がだ?」  フォークに刺してでは食べにくいので、直に摘まんだスティック状の赤パプリカを糸川は小野寺へと突き付けた。 「今日、おれがここへ何しに来たか分かってんだろ!?」 「バレンタインデーのお返しの、続き・・・だったっけ?」  チョコレートをもらって早そうに返した、アレじゃ駄目なのか?ダメなんだろうな、やっぱり。と小野寺は糸川の若さ故の衝動を想像する。 「そうだよ!だから、おれは酔っ払うわけにはいかないの!顕はいいよ。少しぐらい酔っていた方が・・・」
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