2 四十にして惑う

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 糸川は目を覚まして数秒後にやっと、自分が寝てしまったことに気が付いた。  自分が寝ているベッドはごく普通のシングルで、どこにも持ち主である小野寺の姿はなかった。  ほとんど考えもなく起き上がり、さっき脱ぎ捨てたバスローブをはおり、小野寺の寝室を出る。  広めとはいえ単身者向けの集合住宅だったので、小野寺の姿はすぐに見付かった。 キッチンに居た。シンクの上にはワインのボトルとグラスとが乗っていた。 「起きたか?腹減ってるならリゾットを作るが」 「うん。・・・顕、体は大丈夫?」  しおしおと、色いろなところをしおらせたが如く大人しい糸川に、小野寺は思わず笑い出しそうになったが、何とか堪えた。 大人げないと思ったからだった。 「大丈夫だ。誰かさんが痛くないようにやってくれたから」 「よかったぁ・・・安心したぁー」  今度こそ、小野寺は笑いを堪えることが出来なかった。 ごまかすようにワインを口にする。 案の定、糸川の視線は白ワインを満たしたグラスへと吸い寄せられた。  小野寺がグラスを糸川へと向ける。 「飲むか?さっきのチーズフォンデュにも入れてみた。デア ノイエ。ドイツのだ」  アルコールは火が入ると飛んでしまうし、そもそも大量には入れないから当たり前なのだが、ワインの味はまるで感じなかった。と糸川は思う。  だから、気になって小野寺へと尋ねてみた。 「へぇーどんな味?」 「おまえみたいな味だ」 「え・・・?」  更に糸川が気になるような答えを、小野寺は返し続けた。 「新酒だからさぞかし甘いのだろうと思っていたら、意外としっかりしていて辛口。スッキリと酸味もあって、とにかくバランスがいい」 「・・・それってつまり、とても美味しいってこと?」  ワインのことじゃなくて、おれのことを言ってるんだよね?とは、さすがの?糸川も面と向かっては、小野寺に確かめられない。 「飲んでみれば分かるさ」  そう言った小野寺はグラスの中身をあおり、糸川へと口付けた。 不意に飲まされた白ワインを、それでも糸川は飲み下す。 「ぬるくても美味しい」  グラスの残りのを飲んだ小野寺の唇へと、糸川は口付けだけを返した。                       終    
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