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2 四十にして惑う
前回はなし崩しもいいところだった。と小野寺は熱いのシャワーを浴びながら、しみじみと思い返す。
寝室に行く前に廊下で糸川に一方的にされて、それからやっと、ベッドへと自分の寝室へと、二人してなだれ込んだものだった。
しかし、今回のように代わり番こにシャワーを浴びるのも如何にもで、どうにも気恥ずかしい。
仕方がないことだ。とも小野寺は思う。
これから糸川と二人して、人には大っぴらに言えないような恥ずかしいことをしようとしているのだから・・・
大っぴらに言えないというのならば、糸川と自分との関係自体がまさにそうだろう。
禁断愛という言葉を用いるまでもない。同性で自分の子供ほど年が離れていて、しかも直属の部下。
どれもこれも、けして褒められたことではない。でも、それでも・・・
そこまで思って小野寺は、シャワーを止めた。曇った鏡を露わにして、自分の顔を見据える。
そして、無言のままで言い聞かせる。
例え人に謗られても、おれはあいつの糸川の衝動を信じたい。
心を体を、それに晒してもいい。
たかが四粒のチョコレートごときで、そう思えた自分が小野寺は不思議だった。
鏡の中の自分の顔が泣き出しそうに見えたのは、水滴の所為にした。
小野寺とは入れ違いでバスルームへと行っていた糸川が寝室にやって来ると、小野寺は部屋の主にもかかわらず、所在なさげにベッドサイドへと腰掛けていた。
自分の体を包んでいる小野寺から借りたバスローブを見ながら、糸川が言う。
「これって顕の?」
「そうだが・・・?」
普段は交互に着ている二着の内の一つを貸した。
ベッドサイドへと歩み寄った糸川は、小野寺へと抱き付いてきた。
その首筋へと顔を埋めてつぶやく。
「いい匂いがする。顕の匂いだ」
「・・・・・・」
ちゃんと洗濯をしておいたから、それは柔軟剤のに違いない。と冷静に考えつつも、無邪気に言う糸川が可愛いらしいと思う自分に、小野寺は戸惑った。
自分のバスローブ越しの糸川の背中を、小野寺はそっと抱き返した。
しかし突然、ガバリと音がしそうな勢いで体が離され、ベッドへと押し倒された。
「するよ?」
「ちょ、ちょっと待て!」
小野寺はのしかかってくる糸川の胸を押し返した。若い張りのある筋肉を、改めて手の平に感じる。
「何?やっぱり、突っ込まれるのはヤダ?」
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