右腕の時計

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 コーヒーをテーブルの隅っこに追いやって、手前に出来たスペースに便箋を広げる。文房具が好きなボクは、あまり使う機会もないのに、何種類か便箋と封筒を持っていたが、その中からとびっきり特長の無いやつを選んで持ってきた。叔父さん相手にシャレたデザインのものを使うのもオカシな気がしたし、宛先が刑務所なので、なんとなくだが、シンプルな物の方が相応しいように思えた。  紙にペンを走らす前に、邪魔なので右腕にはめた腕時計を外し、左に付け替えた。いつの頃からか、ボクは右利きなのに、腕時計を右腕にはめる。  ふと、(なんでだろう?)と思い、理由を考えてみたが、自分が右腕に時計をはめるようになったキッカケが思い出せない。 (左利きに憧れてという分けでもないだろう……)そう考えたときに、昔、時計を右腕にはめているせいで、「左利きですか?」と聞かれたことを思い出した。  どこだったか、相手が誰だったか、少しばかり考えたあと、色んなことを徐々に思い出した。  相手は男が1人に女が2人の3人連れで、当時ハタチかそこらだったボクよりは、みんな年上だった。名前は思えだせない。もしかしたら名前なんて聞かなかったかもしれない。場所は居酒屋――チェーン店ではなく、個人経営で――なんでそんな場所に居たのか……。(あぁ、なるほどな! 山ちゃんのところだ!)
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