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あれから千咲は俺に懐くようなった。 あまり顔を出してなかった授業にも 俺がいると参加してたし、 いつの間にか席も隣になって、 聡、聡とついて回る。 まるで親鳥と雛みたいだと思った。 俺としては、やや鬱陶しいと感じたが、 『菊池議員の娘』という看板を 背負った千咲の存在は強かった。 まず、俺で遊んでいた奴の数が減り、 急に謝ってくる奴や、 妙に気を使うようになった奴もいた。 あからさまに変わったのは教師達。 今まで見て見ぬふりをしていた癖に、 急に態度を変え、個人面談やら、 他のものに対して注意したり、 やたら謙ったりと、薄気味悪かった。 きっとそいつらには『菊池』の息が 掛かっているのだろう。 自己保身をしている奴らを見ると、 千咲が暴力を出す父親といった 男が、独裁的な人物である事が分かった。 俺は『皆のおもちゃ』から、 『菊池の娘を手なずけたおもちゃ』に 変わっていった。 俺自身、大きな利があったから 千咲の事を無下にはせず、 しょうもない我儘も、勝手も聞いてやった。 自分が大事で、自分が可愛い。 皆と変わらない。 こんなつまらない俺を千咲は 純粋に慕い傍にいた。 千咲は顔や権力では選ばない。 何の利があって俺といる? あいつには何もないはずなのに……。 この頃の千咲のお気に入りの場所は 屋上に変わっていた。 いつもならゲームしたり、 何か食べたり、喋ったりしていた。 でも今日の千咲は 流れる雲を見つめ、上を向いていた。 その横顔は真剣で なにかを思う顔だった。 長い艶髪と綺麗な顔は それはとても絵になった。 この時初めて千咲は、 身体に近づき肩にもたれ掛かり甘えてきた。 何かを求めている様でもなく。 元気なさそうに、目を閉じていた。 髪を撫でてみたら、心地良さげな顔で 余計に密着してきた。 俺は千咲を幼稚な雛として見ていた。 でも、こうやってしていると 柔らかいな、いい匂いがする、 腕細いなとか、要らない事ばかりを 考えてしまう。 「聡……私、聡といると ドキドキする。好きなのかな?」 顔の近い距離でそう話した。 それは初めて構ってもらった 男が俺だからじゃないかなと、 純粋な千咲は初めて男に触れれば、 恋をしても仕方がない。
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