復讐

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俺は来た道を戻る。 何も持たず闇雲に走ってきて、 そう都合よくは会えない。 家の虫だった体は軋み、 あんだけ走れたのに、急にしんどく感じた。 ふうと息をついて近くの塀に座る。 キィ……キィ……と金属の 重なる音が聞こえた。 この辺りの公園だろう。 こんな時間に誰だ? 千咲?いや、まさかな……。 僅かな希望から近づいてそれを見た。 揺れる長い艶髪、クソ変な服の女の子。 「千咲っ!」 フェンス越しにその名を呼んだ。 俺の声を聞き、逃げようと走りだす。 俺はフェンスに登り付き、 必死で後を追う。 足が早すぎて追いつけない、 でも見つけたんだ、逃がさない。 「お願い待って!千咲!ちさきぃ!!」 必死に声を絞り出す。 ガラガラ声で、必死で格好悪い。 そんなすがりつく様な俺の声を聞いた 千咲は立ち止まる。 鞄が地にずるずると落ち、 此方を向くように振り返った。 何も言わない千咲の顔はあの時の 空虚な目に荒れた瞼、 少し痩けた頬が目立つ。 「ごめん、千咲。ごめん…。」 抱きしめて謝った。 謝ることしか出来ない俺、 千咲は俺の体を押しのけ言う。 「私のワガママで 付き合って貰ってごめん。 もう、いいから! もうお終い。 自由にしていいよ。」 「違う、千咲聞いて。 俺もお前が好きで一緒にいた。 これは本当だから…。」 千咲からしても俺の言ってる事は めちゃくちゃ。 嫌いだと言ったり、好きだと言ったり、 理解できないのも、信じられないのも ごく自然な事だろう。 千咲はそう、と言って 鞄を拾って歩きだそうとする。 その手を引き止めた。 「待って、千咲、 俺達本当にもう本当に終わりなのか? 俺はもっとお前と……。」 「どの口が! 私を裏切ってた癖に!! あんたなんか好きじゃない!」 千咲は激高し、手を離し、 鞄を投げつけてきた。 イジメの一環であった、性交渉。 断ることも抵抗も出来た。 やましい過去や、していた事を 嘘をついて隠し。塗り重ね、 それは事実、裏切りだ。 誰のせいにも出来ない。 「お前にイジメの内容とか 過去の事とか色んな事知られて、 嫌われるのが怖かった。 裏切ってたのは事実だな……。 俺が悪い、ごめん。 でも、お前と離れたくないよ千咲。」 「馬鹿するのも大概にしてよ……!」 1度壊したもの程、直すのが 難しいものは無いんだって、 知っていた。 知っていながら壊した。 でも、諦めきれなかった。
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