いつもの光景

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いつもの光景

「お前ムカつくんだよ」 「やーい、弱虫ー」 「ほらまた泣くぞ」 それはいつもの光景。 数人の少年達が、小柄な一人の少年を取り囲む。 それを何も言わずに見るクラスメイト。 それがこの部屋のいつもの光景。 「それにしても、昨日は笑えたな」 「そうそう。かくれんぼの鬼やらせたらこいつ喜んでやんの」 「真面目に数数えてさ。皆帰るつもりなのも知らないで」 小柄な少年はうつむき、何も言えずにいた。 それもまたいつもの光景。 3年2組のいつもの光景。 キーンコーンカーンコーン チャイムが鳴ると、先生が教室に入ってきた。 蜘蛛の子を散らすように、小柄な少年の周りには誰もいなくなった。 「はーい、今日は皆に大切なお知らせがあります。 今日からこのクラスに新しいお友達が入ります。 それじゃ、どうぞ入って来て」 入って来たのは長い髪とスカートを翻す少女。 その姿を見た途端、小柄な少年は思わず「あっ」と声を上げた。 少女もまた同じく声を上げる。 「あら、二人は知り合いなの? それなら良かったわ。色々教えてあげてね」 小柄な少年は頷きながらも、目は少女から離れなかった。 それは思いがけぬ再開のせいなのか。 はたまた運命を感じたのか。 この時の少年にはその答えは分からなかった。 けれど、この瞬間が。 この目に映るこの光景が、いつもの光景になることを気づかないながらも心のどこかで願っていた。
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