唯一の恩を返し続ける

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 ……ああ、彼のニオイがいっぱいだ。  この狭い世界には、彼のニオイであふれかえっている。  それだけで幸せに満ちている私は――だが。  ふと、この世界の違和感に気付いた。  どれだけこの世界を歩き回っても、この世界には私と彼しかいない。  世界であるのならば、他の生き物がいてもおかしくないはずだ。  それこそ、他の人間とか。  なのに何故いないのか――そう疑問に思っていると、 「独り身がネコを飼うと結婚出来ないって言うけど、今の寂しさが紛れるのなら十分だよな」  彼は呟くように、私にそう言った。
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