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―するとどうだろう。向かいにあるトタン屋根の小屋が急に大きくなり、地面に吸い寄せられるようにすとんと落ちた。
そして僕は動くことはおろか話すこともできなくなった。ただそこにいるだけとなった。
―そう、僕はついに植物になったのである。
アサガオになってはじめて分かったことだが、どうやらアサガオは三百六十度全方向に目を向けることができるらしい。そのため倉庫に寄りかかるあのアサガオはもちろんのこと、その反対側にある誰かの家の垣根から飛び出た松も見えた。
目の位置は蔓の先端にあるらしく、紫色の花が眼下に確認でき、そのさらに下には、電柱近くのアスファルトの割れ目から伸びている自分の蔓が見えた。
―紫? そういえばスキャンしたあのアサガオは薄青い花を付けているのに、そのデータから構成した自分自身は紫の花を付けている。
―どうやら完全コピーができるわけではないらしい。いったい何が原因なのだろうか。マシーンの性能が完全にコピーできるほどのものを有していないのか。それとも私の意識ないし魂がこの違いを生み出しているのか。
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