46人が本棚に入れています
本棚に追加
名前を呼ぶと、弟子がはっとした顔をする。さすがに呼び方と話し方で俺だということを気付いたかと期待したが、残念ながら期待は期待で終わった。
「その話し方、そして僕の名前を知っている……。もしかしてあなたは、師匠の妹さんでしょうか?」
「違え!!俺に妹がいるなんて一言も言ったことねえだろうが!」
こいつの察しの悪さには頭が痛くなる。俺の教育が悪かったのか?それとも学業と家事でいっぱいいっぱいで、他のことはあんまり考えられてなかったのか?どっちにしろ、これからの指導方針について考え直す必要がありそうな……。
けど、俺がこいつの立場だったとしても、まさか成人した男が未成年の女に変わってるなんて想像もしねえだろうから、一概に責められはしねえんだよな……。
「信じられないかもしんねえけど、てめえの師匠の野田 双二だ。朝起きたら、なぜかこの姿に変わり果てていた。変化の魔術をかけられた痕跡はねえが、そうだとするとマジで原因が分からないから、後でもう少しじっくり調べてみようとは思ってる。俺も知らないような強え魔術師の仕業かもしんねえしな」
努めて冷静に、分かりやすいように状況を説明したつもりだった。が、目の前の弟子はそれでも眉をひそめて俺を見ていた。
「……新手のドッキリですか?師匠にお金でも握らされて、一緒に僕を騙そうとしてるクチですかね……。面白いだけのドッキリですけど、さすがにしつこく言われると僕も困りますね」
「違う!!っていうかてめえの中の俺のイメージどうなってんだよ!」
そもそも、朝一から弟子を騙すためだけに、わざわざ知り合いに握らせる金は俺には存在しない。
「一体何て説明すれば、てめえは俺が俺であるって信じるんだ……」
「うーん……。そこまで意気消沈されましても……。師匠から、僕を騙さなかったらお金は返してもらうとか言われてるんですか?それでしたら、僕が後で口裏を合わせますので、師匠に弟子へのドッキリ大成功!っておっしゃってくれれば大丈夫ですよ。もしくは師匠の目の前で騙されて欲しいって言うなら、演技もしますし」
「妙に親切そうにしてるけど、違うからな!こんなナリだけど、ゴリラみてえなてめえの魔力を制御できるようにっててめえを6歳の頃に引き取った師匠だって何べんも言ってるだろ!何ならてめえが来た頃の様子だって語れるからな!」
最初のコメントを投稿しよう!