いつだって傍に

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 あの日のことは、あまりはっきり思い出せない。  たぶん、思い出せないというよりは、思い出さないように無意識に頭が鍵をかけているのかも知れない。だって、そうじゃないと持たないよ、こんなの……!  そう叫び出したいような罪悪感。  後から警察にも訊かれた、「何かおかしいこととかなかった?」って。  そのときのわたしは、なんて答えた? ううん、たぶんわかってる。間違いなく、わたしは『何もなかった』って答えたに違いない。そこで「何かあった」ことを認めてしまったら、幼い愛奈(あいな)の身に起こったことがわたしのせいだって認めることになってしまうから。  きっと、幼いわたしは、そんなのを受け止めきれるほど強くなかったし、そのくせ痛いことからはうまく逃げる(すべ)を本能的に使ってしまうズルさはあったはずだ。  じゃなかったら、はっきり思い出せない(・・・・・・・・・・)なんて状態でいるはずがないから。今になってこうして思い出して、歯がガチガチなってしまいそうな苦しさも、味わわないはずだから。  やめてよ、なんで今になってそんなこと言うの? 苦しくなりながら、愛奈を見上げる。 「あ、あの、ごめ……っ」 「え、なんで謝るの? 別に優花(ゆうか)が悪い訳じゃないでしょ? 悪いのはね、あの公園にいたおじさんだよ。優花じゃない」  わたしのことを優しく抱き締めてくれる愛奈の体温が、春先のまだ冷たい夜風のなかではっきりと輪郭をもって感じられる。 「泣かないで、優花。罪悪感からの付き合いだとしても、あたしは嬉しかったよ。……ずっと、苦しかったね」 「そんなんじゃない、わたしはほんとに、愛奈のこと友達だって思ってて、だから……!」  どうしよう、涙が出てきた。  今まで後ろめたさとともに過ごしていたのを、一気に溶かされた気分。わたしは、ただ愛奈に抱きつきながら、涙を流していた。  こんなに優しい友達に、わたしは……  ふと、耳元で声が聞こえた。 「あたしは気にしてないけど、もし優花が何が気になるなら、これからもずっと一緒にいよう。ね?」  少し前に言われていたら、きっと違った。もっと普通の言葉として聞けた。けど、今のわたしには、愛奈の提案を断るなんてこと、できそうになくて。  夜の公園で、わたしたちは“契約”した。
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