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昭和の中ごろ、私は取材のためとある地方の山間の寒村を訪れていた。
東京から半日かけて電車を乗り継ぎ、街からバスで山の麓まで来ると既に夕刻だった。
山間部はとかく日が落ちるのが早い。
それに加え、鈍色の空からぽつりぽつりと雨が降り出した。
私は外套の襟を閉めて歩き続けた。
だいぶ難儀して山道を行くと集落の明かりが目に入り、安堵の溜息をつく。
知人を介して教えてもらった家の前に着くと木戸を叩いた。
木戸が用心深くゆっくりと開き、家の主人が顔を覗かせた。
私を屋内に招き入れると、周囲を伺ってからぴしゃりと戸を閉めた。
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