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 彼に身を任せてしまえればきっと楽になれるのだ。  けれど、今の私にはそれができない。  胸の奥が苦しくなって、彼の服の裾を掴んだ。 「私なんかと付き合ってくれて、ありがとう」 「いやいやなに言ってんだよ。どっちかって言うと、それは俺の台詞なわけだし」 「あなたのこと、好きなんだよ。ずっと優しくしてくれたし。でもね」  でもそれは恋ではないんだ。  私が好きになった人は、別の相手に取られちゃった。どうしてもそれが許せないんだ。 「ごめんなさい。私やっぱり、本当に好きな人を取り戻したいの」 「え、それって」  彼の顔に困惑の色が浮かぶ。 「ねー、置いてっちゃうよ!」  道の先であの子が手招きをしてくる。ああ、早く行かないと。 「ごめんね」  戸惑っている彼をおいて、彼女の元に駆け寄っていた。 「ほら、早く早く」  私はそこに追いつくと、急かしてくる彼女の細い腕を掴んだ。  彼女は大きな目をきょとんとさせて私を見ている。ちょっと離れた場所にいる先輩も怪訝な顔でこちらを見ていた。 「私ね、ずっと前から好きな人がいたんだ」 「え?」 「だけどその人、別の相手に奪われちゃったの。だから今から、復讐するんだ」  不思議そうな顔をしている彼女の瞳をじっと見つめて、私は微笑んだ。 「大好きだよ」  そして隠し持っていた瓶の蓋を開けて、その中身を自分達に振りかけた。
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