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 彼女があんな奇行に走ってから、もうひと月が経とうとしていた。  あのダブルデートの日、彼女は占い師から貰った薬を自分達の体に振りかけた。そして意味の分からないことを言い出して、そのまま意識を無くしてしまったのだ。  あれ以来彼女は目を覚まさない。  先輩もあの少女も突然のことに困惑していたが、俺にはなんとなく事情が分かってしまった。  あの時の言葉からして、おそらく彼女は自分達が溶けるという幻を見ていたのだと思う。  同じく薬をかけられた少女の身にはなにも起こらなかったが、それも当然だろう。あの瓶の中身はただの水だったのだから。  たぶん瓶の蓋を開けた人間のみが『相手を溶かす』幻を見ることができるのだ。俺の想像の範囲内の話であるが、実際に占い師は瓶の中身よりも蓋を開けることの方を強調していた。  その占い師もどこかに姿を消してしまったけれど。  体が溶けて一つになるなんて、結局はただの妄想だ。でも彼女はその妄想の世界に囚われ、今も目覚めない。  彼女が誰を好きなのかはずっと前からわかっていた。わかっている上で、無理を言って付き合ってもらっていたのだ。  でも俺には彼女の心を開かせることはできなかった。一言でも相談をしてくれれば力になったのに、彼女がここまで思いつめていたなんて。  彼女は溶けることもなく幸せな眠りについている。  あの子と一つになることを望んで、そして彼女の中でその願いは叶ったのだろう。  だけど俺は彼女を失ってしまった。 「まさかこんな結末になるなんて」  大好きな人と溶け合って一つになる。  今でこそそれがただの妄想であるとわかっているが、それでも出遅れてしまったなと自嘲する。
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