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 この道はこれまでもよく通っていたけれど、占いのお店を見るのは初めてだ。その人はこちらに向かってほんの少しだけ笑ってみせた。 「なにか悩みがあるようだね」  声からして相手は女性のようだ。  最初はお婆さんなのかと思ったけれど、若い女性の声にも聞こえてなんだか不思議だ。年齢の判断もできないし、顔が見えないのも相まって気味悪い。  雰囲気はそれっぽいけれど、こんな怪しい人は無視するのが一番だろう。 「行こうぜ」  彼も同じことを考えたのか、私の手を引いて再び歩き出した。 「失恋をしたのだね」 「!」 「好きな人の心を、別の人に奪われてしまったのでしょう。あなたは大切な人を取り戻したいと思っている。そして、仕返しをしたいとも考えているようだ」  反論の言葉が咄嗟に出てこなかった。  抑え込んで、ひた隠しにしていた汚い部分があらわにされてしまう。  きっとこの人は、それっぽいことを言っているだけ。こちらの興味を引く為に適当な言葉を並べているだけ。  こんな手に騙されないんだから。 「もしも相手をどろどろに溶かしてしまえるのだとしたら」  その言葉に、今度こそぎょっとしてしまう。 「おや、興味があるようだね」  答えられずにいると相手は意味深な笑みを浮かべた。 「ちょうどこういう物があってね」  占い師さんは一本の瓶を取り出して机の上に置いた。綺麗な模様が施された細い瓶で、蓋は血のような赤い色の硝子で出来ている。
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