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|黒い巨人《だいだろぼっと》
メッセージが届いた。
能見小太郎は左手の金属製リストバンド型情報端末、ブレイス・ターミナルの表面に映し出された文字を読み、眉を寄せる。
指先で端末に触れ、メッセージを開く。
並んで歩いていた高峯梨花が足を止め、彼の手元をのぞき込んだ。
ヘッダー: 受信時刻 2045年03月25日 16:25
差出人 : 大太郎
件名 : なし
差出人の「大太郎」に、まったく心当たりがない。
本文は、一行のみだった。
― やあ、小太郎。元気?
小太郎は手を口もとまで上げ、周囲の人々に聞こえないように音声入力した。
「元気だけど。で、どなたですか」
音声は文字に変換され、大太郎に送信される。
― 良かった。また後で。
梨花が、それ大丈夫なの、と声を上げた。
「分からない。けど、危険な感じはしないんだよね」
彼女は小太郎の腕をつかんで、自分のブレイス・ターミナルを近づけた。
緑色に変色したブレスレットの表面を見て、ほっと息をつく。
既知のウィルスなどの脅威はないという証だ。
「返信するなんて信じられない。小太郎って、もしかして平成生まれ?」
「梨花。うっかりしていたのは謝るけど、そこまで言わなくてもいいじゃん」
彼女はターミナルの操作に夢中で、返事もしない。
しばらくして、メッセージに含まれる差出人情報が少なすぎる、と文句を言った。
「小太郎は鉄太郎さんに似て大らかだけど、ほんとうは細かいところに気が回らないだけでしょ」
鉄太郎は母方の伯父で、彼の養父だ。
会社員だが、古流武術の師範もしている。
「わかったよ。もう、その話はやめてくれ。それよか早く『巨人の広場』へ行こうぜ」
「おう、行こうぜ。コタちゃん」
「その呼び方も、やめてくれ」
公園に集まった花見客と巨人見物の人々を避けながら、二人は小走りに公園の中央にある特設展示場に向かった。
そこに日本が誇る最先端技術の結晶、全高16メートルの黒い巨人がいる。
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