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教室を出ると、大股で廊下を急ぐ。
彼女は小走りについてきた。
どこをどう通ったか覚えていない。
いつの間にか、学内の人気のない池のほとりに来ていた。
水面に映る空は、低い鉛色の雲でほぼ覆われ、棒状の塊となった黒雲が西から迫ってくる。
雨は天気予報よりも早く降り出しそうだ。
梨花は彼の横に立ち、何も言わず、何も聞いてこない。
唇はきゅっと結ばれていた。
聞きたいことがあるのを我慢しているのだろう。
また彼女に気を遣わせている。
そんな思いが小太郎の胸にこみ上げた。
視界が滲む。
池のほとりのベンチの前で、彼は天を仰いだ。
そっと寄り添う梨花のやわらかい頬に、風に乗った雨粒がひとつ、音を立てて当たった。
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