だいだろぼっとの力

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七月半ばの蒸し暑い朝、小太郎が天気予報の動画に向かって思わず反論したのは、気象庁や気象予報士の判断材料に核による大気汚染の影響が入っていないからだった。 核攻撃が行われた場合に飛散する膨大な量の塵によって地球が覆われ、日射が減ることが予測されている。 核兵器の使用による大気汚染も深刻だが、さらに懸念すべき事項があった。 黒い壁を構成する過去20年間に蓄積された膨大な量の塵や、汚染物質が再び大気中に飛散することになれば、地球の寒冷化は避けられない。 彼自身が2週間かけてシミュレーションをした結果、3度目の全球凍結の可能性も否定できない、と昨夜のミーティングで発表したばかりだ。 「コタちゃんのせいじゃないよ。最悪の事態を回避するため、私たち頑張っているんだし」 「君は十分な資格があって招待されているけれど、僕は違う。松戸だか自衛隊だか、外国のスパイだかの怪しい連中に利用されないよう、ここに閉じ込められているだけだ」 「情けないこと言わないの」 梨花は顔をしかめ、次にはっとして自分の眉間を指でぐりぐりとこすり始めた。 しわができちゃうじゃない、と口をとがらせ、席を立ってドアへと向かう。 「どちらまで」 声をかけると、すぐに返事が返ってきた。 「コーヒーを淹れてあげる。何が良い?」 自動販売機(コーヒーベンダー)は洗面所の隣にあるリフレッシュルームに設置されている。 「グァテマラ。砂糖無し、クリーム増量」 彼女は、「ご注文、承りました」と節をつけて返事をした。 笑いながら後ろ手にドアを閉めて出て行くと、小太郎の背後で研究チームの誰かが深い溜め息をついた。
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