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別れを告げる時が来た。
母のゆりかごから、彼の兄弟から、遠く離れなければならないのだ。
「よく受け入れてくれた。やっと分かってくれたんだね」
「あなたと縁を切るために取引しただけ。理解なんてしません」
「研究が成功して全てが軌道に乗ったら、君を探し出して迎えにいくよ」
母は低く、抑揚のない声で答えた。
「何も分かっていないのは、あなたです。わたしはせめて一人だけでもと決意して、子どもを助けるために行動している。約束を違える気なら、条件を呑みません」
「私が悪かった。欲しいものを得たら、2度と君に近寄らないという約束だった」
「約束ではなく、取引です。これが終わったら、わたしと子どもに2度と近寄らないで」
表情はわからない。
母の声もお腹のゆりかごも凪いだ海のように安定していて、とても居心地がよかった。
ここから出たくない。
「始めなさい。すこしでも変な事をしたら警察に行って、知っている事を全部話します」
しばらくすると彼は強い力で身体を挟まれ、胎外へ引き出された。
すぐに体のあちこちに端子を貼り付けられる。
外気と同じ温度の冷たい液体に投げ込まれ、彼はショックで気を失った。
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