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だいだろぼっとの力
『今年の夏は例年より気温が高くなるでしょう。』
気象予報士が朗らかにうたいあげるのを聞いて、小太郎は眉をしかめた。
はっとして、手の甲で眉間をこする。
「そうだったら良いと思うよ。でも今のままでは冷夏になる確率、ほぼ百パーセントだ」
隣で机に突っ伏していた梨花が、「画面に話しかけないで」と力のない声で注意してきた。
「責任を感じてしまうのは分かる。だけどコタちゃんには責任なんてないの」
首を回してこちらを見上げる彼女の眼の下には、黒いかげがくっきりと浮き出ていた。
肌が透き通るように白い上に化粧っ気がないので、クマがとても目立つ。
国立東雲大学の研究室は七月半ばの日差しが窓ガラスを焼き、朝の八時過ぎなのに室内の気温は30度近くあった。
昨夜、離れた場所から黒い壁を構成する粒子間の結合を弱める技術について基礎実験をしたのだが、終了後のブリーフィングが長引いて泊り込むことになった。
周囲の机からは、宿泊施設に戻れなかったメンバーたちの寝息が聞こえてくる。
小太郎は官学合同の研究者チームに半ば強制的に参加させられ、黒い巨人の研究をしていた。
正式に招待されたのは堀部大学工学部環境工学科の准教授で、彼はその助手という立場だ。
卒論の準備や就職活動も始めなければならないこの時期、小太郎と梨花が他大学の研究チームに参加しているのには理由があった。
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