だいだろぼっとの乱

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だいだろぼっとの乱

突然の出来事に、世間から隔絶された感のある研究室もどよめいた。 米大統領が局地的な核兵器の使用に踏み切った、というニュースが飛び込んできたのだ。これで数日のうちに、日本近海で核兵器が使用されることになる。 黒い巨人対策の研究チームが発足しておよそ2カ月が経ったが、未だに黒い巨人を構成する粒子の結合を弱める技術は開発されず、弱体化の糸口もつかめていなかった。 研究室を支配する沈黙に耐え切れなくなったのか、東雲大の教授が「時間が足りない」と悲痛な叫び声を上げる。 同時におよそ2カ月半ぶりの、待ちに待ったメッセージがブレイス・ターミナルを振動させた。 ― 元気にしているといいのだけど。小太郎、この間は返事もしないで悪かった。 「僕は元気だよ。一種の軟禁状態だけどね」 小太郎は周囲を見回した。 皆は米軍の核攻撃準備を伝える特別報道番組に夢中で、彼がブレイス・ターミナルに語りかけていることに気付く者はいない。 「そんなことより大太郎、松戸と一緒にいるんだろ。君の方こそ、大丈夫かい」 ― 君がそんな目に遭っていたとは知らなかった。松戸と……私のせいだ。 誰かが袖を引く。 振り返ると梨花が唇に人差し指を当て、レジュメの裏に書いたメモを差し出していた。 続きのメッセージが届き、ターミナルが振動する。 ― 君に繋がらなくなっていたから心配したが、無事なんだね。安心した。 返事をしようとすると、梨花がブレイス・ターミナルを手で押さえ、メモを突き付けてくる。 急いで書いたのか、彼女にしては乱雑な字で、「あなたのアカウントには国家機密レベルの保護がかけられている。許可のない者が防護壁を破って、たどり着けるわけがない」と記されていた。 何だって! と思わず声を上げると、研究室に居合わせた人々が一斉にこちらを見た。 梨花が素早く彼の口を押さえる。 彼が「何でもない」と手のひらを見せると、仲間たちは報道番組を映すモニターへ向き直った。 堀部大の准教授が口に手を当て、「外でやれ」と唇を動かした。
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