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未来の国から消えた子
能見小太郎は、母胎というゆりかごの中でまどろんでいる。
男の声が、彼の眠りを妨げた。
「今のままでは、一人しか助からない……。君も直接、医師から聞いただろう」
がさがさと嗄れているわりに甲高い声に、小太郎は不快を覚えて寝返りをうった。
彼の動きにより隣にいるもう一人の子が押され、苦しそうに手足をばたつかせる。
「わかっています。だからと言って、すぐに決断できる事ではないわ」
母の声がする。
初めて聞いたはずなのに、すぐにそうと分かる心安らぐ声。
いや、初めてではないのか。
生まれる前のことだから、表層記憶に残っていないだけだ。
「私ならば助けられるのだよ。今のうちに胎児を取り出して保存容器に入れ、生命ごと遺伝子情報を完全にコピーするのだ。研究が進んだら、彼のために新しい身体を形成する事ができる」
「そんなこと、とうてい無理な話にしか思えません」
「私は天才、松戸准教授だぞ。誰かを犠牲にする必要はないのだ。君と私と、子供たちの平穏な暮らしが待っている。技術が確立すれば、国からの援助だって受けられる。しがない大学講師の暮らしとはおさらばだ。地位も名声も手に入れ、なに不自由のない生活ができる」
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