だいだろぼっと始動

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だいだろぼっと始動

2カ月が過ぎた。 小太郎は堀部工科大学の3年生に進級し、夏は暑く冬は寒い所沢とおさらばして、都内の目白キャンパスに通うようになった。 黒い巨人は全国をまわる1カ月間のお披露目を終了し、佐賀県にある研究施設へ戻っている。 通常のコンテナ2つ分の大きさをもつ専用コンテナに寝かせて輸送したのだが、そのことが世間では問題視されていた。 公開期間中に「だいだろぼっと」が作動したのは、小太郎と梨花が目撃したあの一回きりだったからだ。 公表されているデータが正しければ、おかしな話であった。 黒い巨人は大気中の塵で造られた黒い壁に、ヒトの遺伝子情報を記憶させたナノマシンを混合することにより形作られている。 最先端のAIによる制御で、自ら歩いて移動したり、運送に便利な形状に変形したりすることが可能なはずだ。 そのためにわざわざ黒い壁――過去20年に蓄積されてきた汚染物質――を自在に動く人型のロボットに変換したのだから。 なぜ、巨人は動かなかったのか。 「動かさなかったのか、動かせなかったのか。その違いは大きいですよ」 「たいそうな名前を付けて。『黒い巨人(だいだろぼっと)』だとさ。『デクノロボット』とでも改名すればいい」 報道番組のメインキャスターとコメンテーターが面白半分に掛け合いをする。 一方、専門家はいたずらに視聴者の不安をあおりたてた。 「政府は何か、重大な事実を隠しているのであろう」 「研究・開発のために充てられた税金の額を、我々は知らされていない」 「開発主任の大九州大教授、松戸とは何者か。なぜ東大出身の権威を採用しないのだ」 「そもそもなぜ人型のロボットを、近隣国に最も近いところに配置しているのか。環境対策という言葉の陰に隠された真の意図に、国民は気付いていないのだ!」 輸送手段については、まだ試作段階であり人口密集地で不慮の事故が起こることを避けたと、数日後に政府から発表があった。 そのほかの件に関しては、発信元不明の情報に基づく憶測であり、恣意的な情報操作であるとして、ノー・コメントをつらぬいている。
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