野良猫の記憶

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 秋の涼しげな風に頬を打たれ目が覚める。  口の中の気持ち悪いねばつきと夕方の心地よいそよ風を同時に感じながら目をこする。 またこの夢だ。  飽きるほど見ているあの光景だ。起きているときははっきりと思い出せないのに。夢ではしっかりと再現される。いい加減にしてほしい。もう半年も経つというのに。  外はまだ明るい。時計に目をやると夕方の五時少し手前だった。昼食にパスタを茹で、お手軽ぺペロンチーノを適当に作り、居間の丸テーブルで胡坐をかいて食べながらハイネケンを二本空けたのが午後一時過ぎだったと思う。食後に庭先でマルボロを一本吸ったあと居間に戻り、座布団を枕に横になりながら星新一の古い文庫本を読んでいた。そしていつものよう浅い眠りに就いたのだ。  妻と別れてからは休みの日も大体自宅で日中過ごしていた。  仕事を辞めてからはほぼ家にいる。     
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