野良猫の記憶

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 秋の夜空を眺め煙草の煙を燻らせていると庭先で物音がした。すっかり暗くなった庭のビワの樹の真下に一匹の猫が姿を見せた。黒、茶、白。三色の毛並みがうっすら暗闇に浮かんでいる。三毛猫のようだ。このあたりに野良猫は珍しい。外を歩いても出会うことはない。このあたりの住民たちは猫よりも犬好きのようだ。犬の散歩ならしょっちゅう見かける。  僕はなにも持たない左手をその三毛猫に伸ばし舌を鳴らしてみた。猫好きの人間がよくやるように。しかしその猫は微動だにしない。ただじっとこちらを暗闇から見つめている。僕が何かしないか観察するように。  彼女は動物が好きだった。  幼いころに実家で猫を飼っていたらしい。その後、犬も飼い、熱帯魚やフェレット。爬虫類など数々の生き物を飼育したらしい。僕は反対に動物が苦手だ。嫌いなのではない。むしろ好きだった。幼いころ近所の公園で仔猫を拾ってきたことがある。白い毛色の猫だったと思うがはっきりとは覚えていない。  母親に自宅で飼いたいと懇願したが案の定却下された。団地住まいだったので動物が飼えないのはわかっていた。それでも拾ってきた。あとで悲しい別れがあることを知っていながら。僕は仔猫を抱えて公園に戻った。同じ場所に戻してあげようとしたがそこには近所の悪ガキどもがたむろしていた。同じ小学生だったが少し年上で、野良猫をいじめているのを目撃したことがある。僕はその場から離れ仔猫の捨て場所を探し街を彷徨った。  どのくらい歩いたのか。となり町、そのとなり町へと足を運ばせていた。     
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