2年2組 神谷響子 立冬

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 私と山本はそれから結構仲良くなって、ちょっと話すくらいになった。  それでも私の目指すゴールに比べると全然届いてない。私の目標はクリスマスに山本とデートすることなのだ。 「山本って放課後空いてる日ないの? 」授業後のホームルームが終わると私はそう話しかける。 「放課後は毎日走り込みがあるからな...。体育館は使えなくても、日々の積み重ねが大事だから」  山本の答えにふうん、と興味なさげに私は返事する。  前に私と一緒に図書館で勉強してくれたのは、たまたま雨で走り込みが出来なかったから、そんなことわかってる。 「じゃあクリスマスは用事あるの? 山本のことだからどうせ暇なんでしょ」 「痛いこと突いてくるな...。そうだよ、ヒビキとは違ってクリスマスには何もないよ」  その返事を聞いた瞬間、私の心はトクンと高鳴ってドクドクと脈打ち始める。  山本がフリーって聞いただけでこんなになる、単純な私。  じゃあ、私とどこかに行こうよ。そう言おうとした私を裏切るように山本は言った。 「でも、今年はただ暇なんじゃないぞ。監督が頑張ってくれて、強豪校との練習試合が組めたらしいんだ」  その後山本は苦笑いしながら言った。「ただ...、その日がクリスマスなんだよな。俺はいいんだけど彼女がいる奴とかには申し訳ないよな」  なんだそれ、なんだそれ。本当にバレーが恋人みたいじゃないか。  私の喉にまできてる言葉はどう始末すればいいんだよ。  山本はやっぱり私のことなんてどうとも思ってないのかな、私ばっかり気になって、バカみたい。  そんな気持ちがぐるぐるして、何も言えなくなっちゃった私を横から見てたみかんが、助けるように話に入ってきた。 「山本ってほんとバレーばかだよね。もっと色んなこと楽しめばいいのにさ」みかんが私の後ろから、私を宥めるように両肩に手を置きながら言う。 「俺もたまに思うよ、ほんとにばかだなって。折角の高校生なのにって、でもしょうがないんだ」そう言う山本の目は小学生みたいに混じりっ気がなくキラキラしてた。 「俺ほんとにバレーが好きなんだ。今のチームも好きだし、多分死ぬまでバレーやってるんだろうな」  恥ずかしくなったのか、山本はそれからさっさと荷物をまとめて部活に行ってしまう。  わかった、私はバレーが大好きな山本が好きなんだ。  山本が私のこと好きになってくれた時、私はその山本を好きでいれるのかな。  そんな疑問は、ぎゅっと握りしめて、飲み込んだ。  私のこの気持ちが、そんなことで崩れるはずなんてないんだから。
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