2年2組 神谷響子 立冬

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 それからずっと自分の中で二人の私が戦っていた。  諦めちゃいなよって優しい顔で言う私と、彼のことを追いかけるべきだって怒る私。  二つの声が頭の中でガンガンと鳴り響いて、私はたちまち動けなくなってしまった。  友達と喋っているときは二人の私は静かにしているけど、少しでも私一人だけの時間ができるともう止まらない。  放課後、私はいつもの帰り道からふらっと外れて、どことなく漕ぎ出してみることにした。  今だけは高校生とか、 好きとかそういうの忘れて、頭を空っぽにしようと思った。  そうじゃないと頭がおかしくなりそうだった。  20分くらい自転車を走らせたとき、どこに行こうか迷っていた私に、ふっとある場所が思いついた。  そう、海だ。  海が比較的近くにある私は、最近は海なんかじゃはしゃがなくなってるけど、たまには帰ってみるのもいいかなって思う。  砂浜の入り口に自転車を停めて、だいたいビーチの真ん中辺りに体操座りする。  ビーチにはシャツを汗だくにして走っているおっちゃんの他には誰もいなかった。  よかった、私は心底ホッとしていた。  もしここで学校帰りにイチャイチャしに来ているカップルがいたとしたら、私はどんな顔をしてその二人を見たらよかったんだろうって、それだけが気がかりだったから。  波は白い泡をぶくぶく立てながら、引いては打ち寄せる。打ち寄せては引いていく。  波が出すざざーって音、もっと遠くの水平線から聞こえるこわごわした音がだんだんと私の中を満たしていく。  この砂浜に来ると、私はとっても心が落ち着いた。子供の頃から、例えば学校で嫌なことがあって泣いたまま家に帰りたくないときはここに来てた。  この波と水平線は、私の原風景みたいなものなのだ。私が始まったところ、ほんとうの私がいるところ。  だから自分がわかんなくなっちゃったときはここに来ればいい。ほんとうの私がいるのはここだから。 「ほんとうの私、ここに来たらわかるはずだよね...」 体操座りのまま、頭を覆い隠した。 いつまでたっても、夕陽がどれだけ傾いても、海の音は私を優しく包み込んでくれた。
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