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3年1組 曽根 輝 九秋
カッカッカッと鉛筆で紙を叩くように文字を書く。シャーペンが鉛筆の上位互換だと思っていたけれど、使ってみると案外鉛筆の書き心地はよかった。
何しろ自分が勉強すればするほど鉛筆の芯は減っていく。俺がサボったときは、減らない鉛筆の長さが俺にちゃんとやれよって言ってくる。
いつもの放課後は数人だけが教室に残って勉強しているけど、最近は少し違う。クラスのほぼ全員が残って、あることを話し合っている。
「アキラ、アキラは文化祭の出し物どんなのが良い? 」同じ1組のソウタが聞いてくる。
「僕はやっぱり劇だな。去年はダンス踊ったし、やっぱり三年生が劇で盛り上げるもんだろ」
僕の言葉にソウタはだよなぁと言って、手の中でペンをくるくると回す。
教壇には人をまとめるのに向いてなさそうな女子が、あたふたしながら必死に話を取りまとめていた。
クラスの意見としては、劇をやる方向で間違い無いけれど、受験を目前とした俺たちの中にはそんな時間がないって言う顔をしてる奴もいる。
確かに間違ってない。でもなんか俺はそう言うのが少し嫌いだった。見るたびに胸にイガイガができた。
そんなことをする時間がないって、じゃあこのクラスを取りまとめる子はお前らよりどれだけ時間がこの行事に奪われてると思ってるんだ。
それでもこのクラスに尽くしてくれる人がいるってことが、どれだけ素晴らしいことなのか、わからないのか。
口だけで、何もできないだけの俺の言葉はどこにも行かずに、イガイガと一緒に俺の中にあった。
ソウタとくだらない話をしていると、文化祭委員を決める時間になった。
2人の枠に対して、なかなか手が上がらない。
嫌な雰囲気が漂い始めた時に、一人の女子が手を挙げた。
「松原なのさん、ありがとう。あと一人、出来れば男子でいませんか? 」
松原さんが手を挙げたのを見た瞬間クラスの空気が止まった。そんなタイプじゃなかったはずなのにって、みんな思った。
松原さんが委員をやるんだったら、やってもいいな、僕はそう思った。
松原さんは僕の意中の人だ。もしここで俺が委員をやれば、一緒にいる時間もきっと増える。
松原さんとは違う、僕の中にあったのは汚い気持ちだけだった。
まるで邪なことは何も考えていないような顔で僕は自分の右手を真っ直ぐにあげた。
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