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試合は2セット目、20-22で僕たちのチームは劣勢を敷かれていた。
「なあ、橋本、先輩たち負けちゃうのかな」
いつもは呑気でバカなこと言ってるやつらが、しおらしい。
「何言ってんだよ! 僕たちが先輩たちのこと信じられなくて誰が信じてやれるんだ」思わずそう言い返す。
僕の言葉に、ベンチにいるみんなが、そうだよなとうなずき合って応援の声が盛り返す。
「がんばれ、今だ! 」その声に応えるように山本先輩がレフトから強烈なスパイクを打った。
しかし、そのスパイクは運悪くレシーブの正面に飛んでいき、拾われてしまう。
すかさず相手の速攻、取りきれずに弾いたボールを二回繋ぐも、コートに落ちる。
20-23、そのスコアに誰もが言葉を失った。相手のコートとこちら側のコートの温度は全く違う。
声を出すべきなのはわかってるけど、誰もそんなことできやしない。
たまらずコーチがタイムアウトを取る。これで最後のタイムアウトだ。
ベンチに帰ってきた先輩たちはみんな汗だくで、でもそんなこと気にしないでお互いの意見をぶつけ合っている。
僕たちにできることは、水筒を渡してうちわで扇ぐことくらいしかない。
そんな時、山本先輩が口を開いた。
「ここが勝負所だってことはみんなわかってるよな。あと俺たちに今足りないものは何だと思う」その言葉には重みがあった。
「俺は、がむしゃらさだと思う。勝利に向かう貪欲さだ。ネットに落ちたボールがどちらに転がるのか、それを自分たちのものにできるかどうかは、貪欲さにかかっている。と俺は思う」
一瞬間をおいてセッターの先輩が聞き返した。
「山本の言いたいことはわかったよ。でも何が言いたいんだ? 」
「今このチームで一番貪欲さを持っている奴は、橋本だと俺は思う」そこで山本先輩は熱い目で僕に言った。「俺たちに力を分けてくれないか、掛け声だけでいい」
試合に出ていた先輩たちが僕の方を今日初めて真剣に見た。僕はこんな鬼のような人たちと一緒に練習をしていたのか、初めてそう気づいた。
言われた時、何を言っているんだと思った。
こんな大舞台で、僕なんかが出来ることなんかないって、そう思ってた。
でも山本先輩の、僕を見る目を見ていたら、もうちょっとだけ自分のことを信じてあげてもいいのかもしれないと思えた。
円陣を組み、 泣きそうな弱虫な自分が出でこないように声を出す。
「絶対勝つぞおおおお!!! 」
僕たちバレー部の声が、会場中に響き渡った。
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