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その日の授業はあんまり集中できなかった。
入試では使わないだろう生物の授業なんか、聞かなくてもいいのに、授業をすっぽかして寝るたびにちくっと心が痛くなる。
机に突っ伏して寝ている振りをしながら考えているのは、二人のこと。山本先輩と水樹先輩だ。
山本先輩はいつでもかっこいい憧れの人だ。バレー部に入った時から、キラキラ輝いていた。
足首につけてるミサンガも、バッチリ似合ったショートヘアも、スパイクを決めた時笑ってほっぺたに出来るえくぼも、全部かっこいい。なんか高校生って感じだ。
僕は不器用で、根性だけが取り柄みたいなやつだけど、山本先輩を穴が空くほど見ていたら、最近ちょっとはバレーが上手くなってきたかなって思う。
水樹先輩には、一目惚れだった。
最初はあの先輩可愛いなって思っただけだったのに、一生懸命ボールを追ってる姿を見ていたら、自然と目が離せなくなっていた。
生物の先生の話はほとんど女子しか聞いてない。窓側の席の僕は外を一望することができる。
なんとなく、体育館の方に目を向ける。今は体育の授業でバスケをしているらしく、どこかのクラスがはしゃいでいるのが聞こえる。
隣の席の奴に暑いから閉めろって言われて、カーテンをかける。
何度考えても結論は変わらない。ついため息が出そうになるのをなんとか堪える。
多分、水樹先輩は山本先輩のことが好きなんだ。その二人を嫌ってほど見てた僕には、バカな僕にはわかる。
ボールを拾う時間、ちょっとした空き時間があれば水樹先輩はその小さな顔をきょろきょろと振って誰かを探す。
その誰かはいつも僕ではなくて、その誰かを見つけた時の水樹先輩の笑顔は、僕をギョッとするくらいどきどきさせる。
そしてそれ以上に、その誰かが僕じゃないことに僕はイライラして、大きい二つのもやもやが僕の胸を刺すような痛みに変わる。
想像の中では僕は水樹先輩とうまく話せるし、山本先輩よりもうまくバレーが出来る。
けど、妄想は妄想だ。
気づいたら授業は終わる時間になっていた。次のショートホームルームが終わると、その次は部活だ。
今日はいいレシーブが出来るだろうか。トスに上手く合わせて飛べるだろうか。
もし上手く行ったなら、水樹先輩は僕のことを少しでもその目に映る世界に入れてくれるだろうか。
僕の疑問は、教室と窓の外から聞こえる音の中に混ざって消えた。
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