2年2組 神谷響子 立冬

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 それからなんでかは分からないけど何となく山本について調べることが多くなった。  バレー部に入っていて、未経験の下手くそだったけど最近レギュラーを勝ち取ったとか、夏休みくらいに家出したことがあるとか、あとは同じ部活の水樹がそいつのことを好きだったこととか。  私は今まで全然気にならなかったけど、山本は結構個性的に生きてるみたいだった。そしてそんな山本のことが今まで眼中になかったこととか、嘘見たいだと思う。 「ヒビキー、今日学校終わったらイオンかカラオケ行こうよー」ふわふわした声でみかんが話しかけてくる。  美香で、なんかみかんっぽいからみかん。ちっちゃくてとっても女子っぽい。人見知りでちょっと浮いていた私に声を掛けてくれた、大事な友達。 「んー。今日はパス! テスト近いし勉強して帰るわ」 これは半分ほんとで、半分ウソ。来年の今頃は受験を目前にしてるのに、今は全くそんな感じしない、でも何となく何かはしないとって焦ったりする。 「とうとうヒビキも受験生モードだぁ...。ウチ大学行かないから、一人暇だよ」みかんはしょぼくれた顔で言う。  そんなみかんと別れて私は一人図書館までの渡り廊下を歩いてく。  3階の渡り廊下からチラッと右を向くと、いろんな部活が活動してるのが見える。  だから、気のせいだ。  放課後すぐの時間帯にバレー部がグラウンドで走り込みしてることも、ここで毎日ちょっと立ち止まってある人の姿を探してるのも、全部全部たまたま。  私は勉強するために残ってるんだから。  いた。私はそいつを見つけると、鼓動が高鳴って、少しうるさい。  先頭を走ってるその人だ。ショートに切ってある髪の毛が彼の動きについてゆらゆら揺れてる。額を流れる爽やかな汗が、魅力を掻き立てる。  私の視線も心も全部持っていかれてしまう。  気付いたらバレー部の走り込みの時間は終わりを迎えて、私の体はようやく正常に動き出す。  どうしたらいいんだろう。  みかんの恋バナを聞いてる時はああしろこうしろって言えたのに、自分のことになると何もできなくなってしまった。  小さく膨らんできた胸がキューっと締め付けられて、でもどうしようもなくて、つい俯いてしまう。 私はどんな数学の問題よりも難しいものを知ってしまった。 渡り廊下に吹き込む、秋の川に吹くような風が、人肌の恋しさが、私の心を加速させる。
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