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少し前にね、人間の男の子がひとり、この山に迷い込んできたことがあるの。
ぶるぶる震えながら、おかあさーん、って泣いてたわ。
わたし、初めて人間を見たものだから困っちゃってね。
とりあえず吹雪から守ってあげようと思って、かまくらを作ってあげたのよ。
そしたらその子、泣き止むどころか、すっげー、って目を輝かせちゃってまぁ。
まったく、小さくても男の子よねぇ。
他にはどんなことができるの、って聞いてきたから、いろいろよ、って答えたわ。
その子は教えてくれってうるさかったけどね。
──世の中には、不思議なままの方が良いこともあるのよ。それがわからないうちは、まだまだお子ちゃまね。
そう言ったら、ひどいふくれっ面して怒ってたわ。可愛いものよ。
それからしばらくは楽しくおしゃべりしてたんだけど、わたしには過ごしやすいくらいの冷気でも、その子にとっては良くなかったみたいでね。
だんだん顔色が青白くなって、震えも止まって、ぼうっとして動かなくなったの。
わたしはそれはもう慌てたわ。
とにかく、この冷気からこの子を逃がしてあげなきゃって。
でも、わたしにはこの山の吹雪を止めることはできない。
だったら、わたしがこの子を連れて山を下りるしかないじゃない。
急いで氷のソリを作って、その子を抱えて山の斜面をひたすら滑り下りたわ。
やっと人里にたどり着いて、その子を探していた人間に預けたの。
暑くて仕方がないからとっとと退散したかったけれど、その子がどうしても気がかりでね。
結局、その子が目を覚ますまで、傍に付いていたわ。
それでね。目を覚ましたその子に、氷で作った結晶をペンダントにして贈ってあげたのよ。
人里でもそうそう溶けないように、力と心を込めて。
わたしが死なない限りはたぶん溶けないと思うけれど、最近の人里は暑くなってきたと聞いたし、どうかしらね。
その子ったら、大事にする、ってやけに真剣に言うものだから、ちょっとだけきゅんとしちゃったわ。
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