小説家さんと彼らとの日常

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 それを確認してすぐにそっと寝袋から抜けだして立ち上がると大河さんが私のそばに来て、じゃあ行こうか。とアイコンタクトをする。  また、前髪をヘアピンで留めてるんだな。  暗い中でも彼の目が見えることくらいは分かって、最近になって邪魔になってきたのかな?と疑問に思いながら玄関に向かった彼に続く。  ここら辺が段差、かな。  明かりがついていない玄関。長くここに住んでいる大河さんは見えなくても感覚で靴の位置が分かるらしいけれど、私はまだそこまでは至っていなくて足で廊下の端を探る。  あぁ、ここか。なら靴はそこら辺かな。  玄関でしゃがんで自分の靴を近くに寄せ、それを履いたところで大河さんが扉の鍵を開け、大きな音が出ないようそこをゆっくりと開く。  なんか、悪いことをしているみたいだな。  ふたりを起こしてしまっていないか、最後に一度だけ部屋の中を振り返ってから外に出ると大河さんが鍵を閉める。 「今日はどこに行きましょう」  小さな声でそう問いかけながらアパート前の道に向かうと 「じゃあ、郵便局のほうに」  と声が返ってきて、すっと手をとられる。 「大河さんは、子どものころ、いたずらとかしました?」 「そのときの気分に似てる?」 「そう、かもしれませんね」  手のひらに彼のぬくもりを感じながらするのは、してもしなくてもいいようなどうでもいい話。 「それにしても、静かですね」  ぽつりぽつりと会話をしながらアパート前の細い脇道から広い道に出ると一台の車が通り過ぎ、そのライトがあっという間に遠ざかっていった。けれどそれ以降は時間が時間だからか歩道を歩いていても横を通り過ぎる車はほとんど無かった。
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